小学校三年生のタケルは、遠足の日を心待ちにしていた。
担任のサトウ先生から「おやつ代は200円まで」と言われたが、タケルは一つのアイデアを思いついた。
「お弁当のデザートにバナナを持っていけば、駄菓子200円分とバナナを両方楽しめるんじゃないか?」
と考えたのだ。
遠足の前日、タケルは勇気を出してサトウ先生に質問した。
「先生、バナナはおやつに入りますか?」
サトウ先生は少し驚いた顔をしたが、笑顔で答えた。
「バナナもおやつに入るよ、タケル。でも、いいアイデアだね。」
時は流れ、タケルは中年になった。
仕事に追われる毎日を送っていたが、健康診断の結果が悪く、産業医の先生から
「毎日のおやつは200キロカロリーまで」
と言われた。
タケルは再びあの質問をした。
「先生、バナナはおやつに入りますか?」
産業医の先生は少し驚いた顔をしたが、真剣に答えた。
「バナナもおやつに入りますよ。糖質の量が多いですが、そのほかの栄養素も含まれるので、適量を守れば健康に良いです。」
タケルは先生の答えを聞き、子供のころの自分を思い出して、苦笑いをした。
そして、
「結局、発想は変わっていないな」
と思いながら、
「バナナ1本 100キロカロリーだから、コーヒーに砂糖とミルクを入れなければ、あとチョコレートかクッキーをひとかけ食べても大丈夫だな」
と計算をはじめ、
「やっぱり、全然変わってないな」
とさらに苦笑した。